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海洋・湖沼環境におけるクロロフィル色素の代謝プロセスの解明

水圏環境に見いだされるクロロフィルの代謝産物

この研究は,水圏環境(海や湖など)において,従属栄養生物に摂取されたクロロフィル色素が,その光化学的ないし熱化学的な反応性を制御され,分解・ないし無毒化されていく機構の理解を目的とします。すなわち,水圏環境中からこれまでに報告されている主要なクロロフィル誘導体のうち,(1)量的に重要かつ明らかな生物学的関与が想定される4つの化合物群が水中での生成するメカニズムと,(2)それらの生物学的な存在意義の解明を目指します。(1)に関しては,これら化合物の生成(基質であるクロロフィルからの変換)プロセスに関与する生物を特定して,それら生物の生息・活動環境,あるいは生成反応の環境条件等を検証します。(2)に関しては,有機合成によりクロロフィルから各化合物を作り,化学反応性,物性(会合・凝集体の形成など),光化学特性(特に光毒性−活性酸素種発生に関する機能)などを実験的に検証します。また,これら化合物の天然環境中(生物中・細胞内を含む)における状態を,顕微鏡下での様々な観察(微小領域での吸収,蛍光の変化など)や化学分析により特定します。

ミジンコの観察・分析

堆積物中に保存されていくクロロフィル誘導体の多くは,従属栄養生物による「代謝」の産物であると考えられます。このことは,本来科学的に不安定なクロロフィル色素が堆積物中に集積され,さらなる変化を経て数億年以上安定に保存されていく理由が,ごく初期の水界における生物学的な変質作用に帰結されることを意味します。つまり,環境試料・地質試料中におけるクロロフィル誘導体は,それらの究極的なソースである光合成一時生産者の情報に加えて,それらに依存する従属栄養生物の生理を反映した「複合的指標」としての価値があり,この研究はそれらの指標分子としての能力を引き出すことを目指しています。また,本研究で用いられる分野融合的なアプローチ,特に顕微観察の手法から得られる成果を,クロロフィル色素以外の化合物に関する環境中でのダイナミクスの研究に応用・発展することができれば,異なる確度からの環境解析である従来のオミクス研究と合わせて,水圏微生物同士の「繋がり」を解明する新しい研究の創造に繋がる可能性を秘めています。


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Yuichiro Kashiyama, FUT